自然と香りのミスト

2016年12月15日 Nishiwaki Jinya

今年の秋は、実に天気が安定しない。もうそろそろ冬が来るなと、寒さへの身構えも不十分に、寒くなっては暑くなるの繰り返し。最終的にはコーヒーで体を温めたくなる季節がやってくるのだろうが、現時点ではそれはもう少し先の話。そう思っていたこの日も、Tシャツで過ごせる暖かい一日となった。外は快晴。どこかへコーヒーと共に出かけたい。気温を変えられないのなら、飲むシチュエーションを変えたらどうか? つまり、涼しさを感じられる環境に赴くのだ。絶好の場所が、家から自転車で20分のところにあるのを思い出した。国道を外れ、山間の緩やかな坂を上っていく。『滝』の入り口を示す看板が見えた。

 

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この地に引っ越す前、家族と一度だけ来たことがある。それ以来訪れるのはこの日が初めてなので、約25年ぶりの再訪だ。その時見た風景は、残念ながら覚えていなかったが、なるほど、これがその滝か。ゴオゴオと音を立てるでもなく、かといって滝と呼ぶにはどうかと思うほどチョロチョロと流れるわけでもなく、落ちる水がせり出た岩肌にはっきりと白い筋を残し、辺り一帯をミストで覆っていた。登り坂でじんわりと汗をかいたが、これならコーヒーを飲みながらでもすぐに涼しめるだろう。そんな環境だった。

 

バッグから、お湯を入れた水筒とタンブラーを取り出す。このタンブラーはフレンチプレスを兼ねており、さらには豆が入る小さな容器を底に収納した優れもの。コーヒー豆をタンブラーに入れ、お湯をサッと注ぐ。まるで水面を打つ滝のように、お湯がコーヒー豆を叩きつけ、コーヒーの香りを含んだ湯気、つまりミストをフワッと立ち上らせる。コーヒーのミストが鼻先を温め、滝のミストが体を冷やす。温かさと涼しさの介在。なんだか今年の秋を表しているようだった。

 

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出来上がったコーヒーを持って滝の近くに移動し、しばらく眺めてみることにした。体が冷えれば、コーヒーを一口すすれば良い。太陽だってまだまだ高い。何とも気が楽だ。

 

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当然と言えば当然かもしれないが、水はしなやかだ。水の流れは合理的で、無理な方向には流れていかない。そしてそれ自体の形を自在に変えて、衝撃をいなす。絶え間ない流れの中で、その通り道を滑らかに作り上げていく。コーヒーも水と同じ液体だ。しかし、何も暖を取るためや喉を潤すためだけのものではないと思う。香りが脳を刺激し、雰囲気、ひいては小さな世界を生み出すからだ。水が岩肌にその通り道を描いて滝を作り上げたように。嗅覚、味覚、視覚、聴覚、感覚の五感をフルに使う、そんな贅沢な秋の昼下がりだった。


アウトドアコーヒーレクチャー&翻訳

西脇仁哉

Nishiwaki Jinya

プロマウンテンバイカー&翻訳家。海外マウンテンバイク雑誌などの翻訳をしながら本人もプロのマウンテンバイカー。昔からコーヒー好きで、アウトドアコーヒーに関する資材も多数所有。空気の澄んだところで飲むコーヒーは美味であり広めたい文化。



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