吐く息を呑み込む白銀の世界

2017年2月14日 Nishiwaki Jinya

一年中、雪の降らない、あるいは降っても数日で解ける関東の山間に住んでいると、どうもマウンテンバイクばかりに乗ることになる。それはそれで素晴らしいことなのだが、SNSの投稿が雪の話題で埋め尽くされると、こちらも吊られて雪山に行きたくなる。そこで行ってきた。しかも、スキーと見せかけて、結局ナイターでマウンテンバイクを乗りに。なかなかない試みで、愛好者が何十人と集まっていた。

たっぷり走り、転げ回り、温泉に浸かって疲れを癒した次の日の帰り道、一面真っ白の河川敷を見つけた。本当に、周りに何もない、真っ白の世界。厚い雲の上に立ったような、真っ白の世界。あと少しで高速道路を走る。そうなると、あっという間にこの白銀の世界とお別れだ。その前にカフェインチャージをしておきたいと思い、車を停めてコーヒーセットを持ち出した。どこまで行っても真っ白という不思議な感覚に陥りながら、適当なところで腰を下ろす。折り畳みの椅子とテーブルを広げ、周りに誰もいない、静かなカフェをオープンさせる。コーヒーを淹れるのも、飲むのも、自分だけの世界だ。

バーナーに火を点け、手で風除けを作りつつ温める。寒冷地用のカートリッジを忘れずに持ってきてよかったと思った。雪上の椅子に腰掛けている様子を側から見れば、ワカサギ釣りといったところか。でも、魚が釣れるのとお湯が沸くのとで待つなら、温かいコーヒーの待つ後者が自分には合っている気がする。バーナーの炎が雪の上で水を沸かし終えれば、この寒さから解放される。青白い炎を見つめ、早く沸けと、念を送る。

この日選んだ豆は、三和コーヒーワークスの深煎りブレンド『BRUNO』。そこに沸いたばかりのお湯を少し注ぎ、豆を蒸らす。ここで焦ってお湯を一度に入れてしまうと、せっかくのコーヒーが台無しだ。対流を作りながら、残りのお湯を丁寧に注ぎ、さらに待つこと数分

まず一口。待つ間に冷えた体に、その深い薫りと優しい甘さが沁み渡る。一口飲み、一息吐く。その息が、一層白くなる。それでも、次の瞬間にはこの一面真っ白の世界に吸い込まれていく。体の内側から外側へと、温もりが伝わる。徐々に、手先足先までも温まってくる。マグカップ片手に、足を取られないよう気をつけながら、辺りをうろついてみる。温かいコーヒーさえ持っていれば、この白銀世界をどこまでも歩いていける気がした。

次はどの雪原でコーヒーを飲もうか? そんな期待をよそに、上信越道周辺の山肌は、関東に近づくにつれて茶色くなっていった。

写真:新井俊幸


アウトドアコーヒーレクチャー&翻訳

西脇仁哉

Nishiwaki Jinya

プロマウンテンバイカー&翻訳家。海外マウンテンバイク雑誌などの翻訳をしながら本人もプロのマウンテンバイカー。昔からコーヒー好きで、アウトドアコーヒーに関する資材も多数所有。空気の澄んだところで飲むコーヒーは美味であり広めたい文化。



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