透き通る水と眩しいほどの星空に囲まれた誕生日
8月も終わりかけたある日、愛犬のサニーと共に、キャンプへ出かけた。曇りか雨ばかりだった白馬村から逃げ出したい一心で。きっと、この日が自分の誕生日ということで、ラッキーなことが起こるに違いないと信じて。
国道19号を名古屋方面に向かってひた走る。あともう少しで岐阜県に入るというところで出てきたのが、今回訪れた阿寺渓谷だ。谷から車で林道を上ること約6km。携帯電話の電波が通じない秘境に到着した。外界との連絡を絶ち、自分だけの時間をサニーと過ごすのにもってこいだ。キャンプサイトは半分ほど、家族連れで埋まっていた。その中でも川に近く、端っこのサイトを確保。チェックインを済ませ、まずはテントを設営した。
寝床を確保したら、川へ降りて散策した。川の水はどこも透き通っている。巨大な岩の上から川を覗き込むと、淵は濃いエメラルドグリーン色をしていた。川底まではっきり見え、吸い込まれそうだった。サニーも冷たく綺麗な川で遊ぶことができ、満足気だ。
キャンプサイトに戻り、夕食の準備を始める。おそらくはまだ夕方だろうが、腹時計に頼ることにした。炭起こしにやや苦戦したものの、日が落ちる前にはお一人様の焼肉を終えていた。あとはしばらくテントで横になって、辺りが暗くなるのを待つだけ。天体観測が、この日最後のプランなのだ。
川遊びで疲れたサニーと一緒にうたた寝をし、川の流れの音で目を覚ました。あちこちで、ランタンやたき火が優しいオレンジ色の光を放っていた。キャンプサイトからほんの少しだけ離れ、ヘッドライトを消す。そこには、雲ひとつない星空が広がっていた。それも、星座が識別できないほどに。
翌朝、テントから外を覗くと、辺り一面は霧に包まれていた。昨日の爽やかな晴れは何だったんだろう? そう思わざるを得ないほどの変わりっぷりだ。コッヘルで簡単な朝食を作った後は、コーヒータイム。後片付けが楽な器具を選んでおいた。その場でペーパータオルでサッと拭き、帰宅後にしっかりと洗えば良いからだ。
カップに注ぐのは、眠気覚しに必要な分だけ。残りを誕生日プレゼントで貰ったタンブラーに注ぐ。渓谷を探索する時に飲むのだ。プレゼントを贈ってくれた友人曰く、NOMAD(意味:遊牧民、放浪者)の文字が目に入った瞬間、「コレだ」と思ったそうだ。
メインの林道に沿って渓谷が続いており、川へと降りれるスポットが点在する。岩に腰掛け、流れているのかどうかがわからないほど透明な水を見ながら飲んだコーヒーは、格別な美味しさだった。秋は見事な紅葉が楽しめるこの渓谷。また来なくちゃ。そう思った。
余ったコーヒーは、帰りのドライブのお供に。白馬村に入ると、また曇りだった。ハウスメイトから、昨日は雨がすごかったよ、と教えられた。