With ~ 共に歩む
今年初めにエスプレッソマシンを買った。カフェで見るような据え置き式ではなく、直火にかけられるポット型のものだ。さあ、こいつを連れてどこへ行こうか。いろいろなシチュエーションに妄想が膨らむ中、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府から緊急事態宣言が発令された。
暑く、短い夏が過ぎ、気づけば秋も終わりの11月のある曇りの日。ようやく、先のエスプレッソマシンを連れ出すことに。行き先は、自宅の裏山を越えること約45分のちょっとした渓谷だ。景勝地とまではいかないが、それでもそこが都心まで電車で1時間の距離にあるのを忘れさせるような景色が広がっている。
落ち葉を計6本の足がザクザクと搔きわける。涼しさもあって、愛犬サニーは石段も急坂もなんのその。こちらはフウフウ言いながら、カメラとコーヒー道具の詰まったバックパックを背負って彼女の後をついていく。川を飛び石で渡れば目的地に到着というところで、それまでひょいひょいと歩いていたサニーの足取りが止まった。急に怖くなってしまったようだ。夏であれば、そのまま泳がせて渡ったが、今回は抱きかかえることに。23kgが両足に重くのしかかる。
渓谷に到着。すでに葉を落とし、冬支度を進めているその景色に人の姿は見当たらない。荷物を降ろし、のんびりするのに良さそうな岩を探して河原を歩き回る。すると、てっぺんから木が吹き出るかのように広がった大きな岩が目に入った。そこへ登れば川を見渡せる特等席になったが、サニーが高さを怖がってしまい断念。結局、その岩を見上げられる、低めの岩を選んで腰を掛けた。
川が微かに流れる音を、火にかけたマシンがエスプレッソを豪快に抽出しながらかき消していく。木彫りのククサに注いだら、いよいよお待ちかねの「お一人様時間」の始まりだ。
静寂のせいだろうか、強めのエスプレッソが体により染み込んでいくように感じる。すっかり冷えてしまった体に、程よい熱さが心地よい。気持ちはボーッとしながらも、頭はカフェインでシャキッとしていく。もう少し早く来ていれば紅葉は綺麗だったかな、なんて思いながら、水面に浮いた落ち葉に目をやる。
実は最近、ボルダリングを始めた。まだまだ自然の岩を登る経験は浅いのだが、登ったら面白そうな岩を探してしまうなど、また新たな視点で自然を眺められるようになってきた。次回はボルダリング x コーヒーなんて面白いかもしれない。
再び落ち葉を踏み鳴らし、山を越えていく。途中、巨木をサニーと一緒に見上げる。彼女には鳥かリスが見えたのだろう。
まるで示し合わせたかのような姿を写真に収めることができた。
静寂の中、自然で過ごした3時間。これを書いている今、シャンプーされてフカフカになったサニーは、隣でくうくうと寝息を立てている。お互い、心身ともに充実した時間を過ごせたのではないだろうか。引き続き、感染拡大に注意しながら、コーヒーと共に歩んでいきたい。